【解説】JTが高温加熱式たばこを強化&3000人規模の希望退職者を募集【たばこの転換期】

日本たばこ産業(JT)が、たばこ事業を見直すことを発表しました。

発表では以下のことが述べられています。

  1. たばこ事業の事業運営体制の⼀本化
    • → Reduced-Risk Products(喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性のある製品) に、グローバル規模でリソースを集中投下する
  2. ⽇本マーケットの競争⼒強化
    •  → 地域密着型の営業活動を更に推進
  3. 事業環境に適応した組織基盤構築
    • → 国内工場などを閉鎖
  4. JTにおける要員適正化
    1. → JT 社員 3,000 ⼈規模の希望退職募集

「3,000人削減!」といったことに注目される今回の発表ですが、加熱式たばこが登場した2016年からずっとたばこ業界の最新情報を追ってきた筆者が、今回の内容を解説していきたいと思います。

目次

今回の発表の意味:たばこ業界の大転換期

今回の発表は、以下の旨から始まっています。

当社グループは、たばこ事業において、事業環境の変化への対応を強化し、持続的成⻑を⽬指していく観点から、競争⼒・収益⼒強化に向け、たばこ事業運営体制の強化に取り組むこととしましたのでお知らせします。

これを一言で言うと、JTにおける「たばこ事業」の大改革をしますと言っています。

JTは主な収益をたばこ事業で賄っている企業ですので、この改革はJTという企業自体の、大革新といえるでしょう。

しかし、その波はすでに見えていた事柄かとも思います。

転換期にあるたばこ会社

現在、たばこ業界はこれまでに類を見ない大転換期を迎えています。

人々の健康意識が高まる…とかそういった個人レベルの話ではなく、「健康増進法」という法律が全面施行されたことで、受動喫煙対策がマナーではなくルールとなりました。

また、それに合わせて「加熱式たばこ」のシェア率が大幅に上昇してきており、健康増進法の中でも「加熱式たばこなら吸える」といった特別なルールも生まれるほどになっています。

つまりこれの意味するのは、既存の紙巻たばこの大幅なシェア率の低下。今回のプレスリリース内でも語られているので未来を見据えて言うのであれば、「紙巻たばこが撤廃される」可能性が見えていた時代となっています。

競争の加熱化

転換期にあるということで、たばこ会社各社が加熱式たばこの販売に躍起になっています。

BATの高温加熱式たばこ「グローハイパープラス」は定価が980円という低価格で2021年より展開。フィリップモリスの高温加熱式たばこ「アイコス3デュオ」もBATの動きに合わせるように値段を3,000円値下げ(定価6,980円に)。

JTも新型の低温加熱式たばこ「プルーム・テック・プラス・ウィズ」を、1,000円割引キャンペーンを行いつつやっと2021年2月より全国展開を開始しました。

このように加熱式たばこ各社の動向を見ていると気づくことがあります。それは、JTの動きが少し遅いという点です。

さらに言えば、喫煙者の多くが馴染みある「高温加熱式たばこ」カテゴリーにおいてはJTのシェア率は低いものとなっています。

その結果、発表の冒頭にあった「競争⼒・収益⼒」が下がっていると考えられます。つまり、この2つの課題を解決するために以下の取り組みを行っていくわけです。

①:加熱式たばこへのグローバル規模でのリソース投下

第一に、本社機能をスイスにジュネーブに移管し、グローバル規模で製造などを行っていくそうです。

これがもし、最適に動けば。

JTの新型の加熱式たばこが発売された!→ でも全国展開は半年後です。

↑こういったことがなくなる可能性があります。

前述のとおり、「プルーム・テック・プラス・ウィズ」はその道を辿りました。買いたいのになかなか買えない!じゃあ他の加熱式たばこ買おう。と、ユーザーの心理は動いてしまいます。

もちろん、グローバル規模での対応になるので上述の「PT+with」のような例でなく今後全世界で展開しうる高温加熱式たばこデバイスや、たばこ各種製品の構想がJT内にあり、それを最適に展開していくことも考えているかもしれません。

②:日本マーケットを地域密着で攻める

日本における販売体制を、都道府県ごとに支社を立てて、47⽀社体制にするそうです。

如何にグローバルな体制にしようとも、日本の販売量は重要なものなはず。地域密着で攻めることで、例えばコンビニやたばこ屋さんなどでの露出度を増やしたり、より新しいキャンペーンを行っていくことが予想されます。

各社様々なマーケティングを行っている

ちなみに、、

フィリップモリスの「アイコス」は、喫茶店にて「アイコス無料お試しキャンペーン!」などをやっていることがあります。以前上島珈琲店で見かけたことがあります。機器もサンプルたばこもくれるので、本当に気軽に試すことができます。

BATの「グロー」は、居酒屋での販売が得意な印象があります。飲んでいるとお姉さんがやってきて、「グロー、試してみませんか!?今なら安いですよ」と販売を行ってくることがあります。

各社地域密着でこのようなマーケティングを行っており、JTの「プルーム」シリーズもより積極的にマーケティングを行っていく可能性がありますね。

アイコスのフレーバー全種類の画像

喫茶店でのアイコス無料利用キャンペーン

③:国内事業量に応じた工場等の廃止

①、②の改変にあたり、要員の最適化などを行うそうです。

大きなところでは、「九州工場」という年間87億本もたばこを製造している工場も廃止される予定。

九州工場では、「セブンスター」、「アメリカンスピリット」、「プルーム・エス・専用たばこスティック」などが製造されてきました。

こういった工場の廃止を見ると、本当にグローバルでの製造体制に移管するのだなということがわかります。日本ではあくまで原料の収集と、販売の力を高めていくことが間違いない流れとなりますね。

④:3000人規模の希望退職者募集

そしてこれが1番大きなニュースとなりました。各報道機関でも大きく報じられていますね。

これらのニュースではやはり「3000人削減!」など、若干不安を煽るような見出しが付き、生産が縮小していく旨が大きく報道されていました。

たしかに、このように大きな人員削減のような取り組みは、昨今あまり見られないことなので、話題になりますよね。

JTという会社が生きていく手段を取った

ここまで見てきた4つの手段をもって、たばこ事業の刷新をするという発表でした。

筆者が加熱式たばこのこれまでの流れを見てきた上で思うのは、今回のJTの対応策は、JTという企業が生きていく手段(唯一とは言わないが)だと思います。

昨今のたばこ業界は本当に転換期を迎えており、もともと「日本専売公社」という名の国有企業として成り立っていたJTにとっては、民営化に次ぐ大きな転換期ともいえるかもしれない、それほど大きな転換期かと思います。

詳細は「加熱式たばこのジレンマ」という記事にまとめましたが、「加熱式たばこ」というジャンルが誕生することによって、たばこ会社はこれまで体験しえなかったシェア獲得争いが発生しているのです。

加熱式たばこのジレンマ|なぜアイコスの価格を下げるのか?たばこ市場の「加熱っぷり」を解説します 加熱式たばこのジレンマ|なぜアイコスの価格を下げるのか?たばこ市場の「加熱っぷり」を解説します

この時代を生き抜いていくためには、広いリソース活用と、そして早い意思決定が必須です。この対応のため、今回の大改革を行っていくのだろうと筆者は思いました。

2022年が本当の転換点

ちなみに、今回のJTの対応は主に2022年から順次されていく予定ですが、実はこれをフィリップモリスCEOは予想していました。

タバコの転換点が5年後にやってくる。アイコス・フィリップモリスCEOが語る未来 タバコの転換点が5年後にやってくる。アイコス・フィリップモリスCEOが語る未来

上記の記事は2017年のものですが、「5年後にたばこの転換点がやってくる」と述べています。奇しくも、JTの対応が始まるのも2022年・・・。2022年が本当にたばこの転換期となることでしょう。

最後にJTの代表取締役社⻑、寺畠正道氏のコメントを掲載して終わりたいと思います。

JT グループは、⼤きく変化する事業環境の中においても、RJRI・ギャラハー等の⼤型買収や新興市場への地理的拡⼤、GFBを中⼼としたブランドエクイティ強化、RRP の販売拡⼤に向けた継続的な投資等、将来を⾒据えた上で課題を先取りし、⾃らを変⾰させることで成⻑を続けてきました。

そうした取り組みに加え、私の社⻑就任からの 3 年間、国内外の R&D や RRP 組織の One Team化推進、海外たばこ事業における事業運営体制の変⾰(Transformation)等、グローバルベースでの競争⼒強化に向けた基盤強化を実施し、着実に進化を遂げてきました。これまでの取り組みをさらに加速し、RRP カテゴリーにおいてもグローバルで競合と伍していくため、事業投資の優先順位を明確化するとともに、グローバルリソースの最⼤限の活⽤を可能とし、お客様のニーズや期待を超える商品・サービスをより効果的且つ効率的に提供できる体制を構築するべく、現在の海外たばこ事業、国内たばこ事業の 2 事業体制を⼀本化することといたします。

併せて、グローバルなたばこ市場の中で、RRP カテゴリーの競争が最も熾烈な⽇本市場においては、お客様への提供価値最⼤化に向けた競争⼒強化が急務であることに加え、過去数年に亘る事業量の減少や不確実性が⾼まる事業環境を踏まえ、厳しい決断を含む各種施策の実⾏を決定いたしました。これらの取り組みにより、JT グループをもう⼀段、新しいステージに進化させ、中⻑期に亘る持続的な利益成⻑の実現を⽬指してまいります。

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