たばこ葉がコロナのワクチンに?1週間に300万本のワクチンが生産可能か BATが発表

タバコメーカー大手「BAT」が新型コロナウィルスのワクチン開発に着手。治験の準備段階へ。

加熱式たばこ「glo(グロー)」のメーカーであるブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)は、新型コロナウィルスに対するたばこ葉由来のワクチンを開発中であり、治験に進む準備が整ったと発表しました。

BATは4月より、この取り組みを行っています。この臨床試験がうまくいき、且つ政府機関等の支援があれば、1週間に100万〜300本のワクチンの製造が可能になると伝えています。

日本ではあまり報じられていないこの話題。海外メディアでは多く取り上げられています。もちろん、たばこの喫煙は肺炎などを加速させ、コロナウィルスを悪化させる可能性があるものです。しかし、その原料であるたばこ葉がワクチン開発に繋がるかもしれないー というのは、驚くべきことかもしれません。

この記事では、BATが進めるワクチン開発について、詳細にお伝えします。

アイコスさん

監修者

Twitter:@iqossan
2016年より運営している加熱式たばこメディア「アイコスさん」代表。IQOS歴は7年。gloとPloom歴は6年。加熱式たばこデバイス所持数は100台を超える。
JT本社に取材、IQOSストア銀座店のオープン初日に取材など、加熱式たばこをはじめとした「新型たばこ」の情報を、正しくわかりやすく伝えることを心がける。月間最高PV数は400万。

既に人に対する臨床試験(治験)の準備中

「タバコ葉由来のワクチン開発を始めた」というのは、4月1日付けでBATが公表しています。(*1)

この発表から1ヶ月、ついにワクチン候補の人に対する臨床試験…つまり「治験」の準備が整ったということが発表されました。

現在、FDA(米国食品医薬品局)の許可を取得する段階で、既にFDAから治験許可申請を受領したとの通知があったことを明らかにしています。つまり、FDAが許可を出せば、ヒト臨床試験に進むことになります。(*2)

開発はBATの子会社

そもそも、BATは世界第2位のたばこメーカーです。日本でKENTなどのたばこブランドを持ち、最近シェアが高まっている加熱式たばこ「glo(グロー)」のメーカーでもあります。

このワクチンの開発は、BAT本社が行っているのではなく、アメリカにあるBATのバイオテクノロジー子会社である「ケンタッキーバイオプロセッシング(KBP)」が行っています。また、この「COVID-19 ワクチンプロジェクト」は非営利目的で行われています。

KBP…という社名はあまり聞き及びがないかと思いますが、2014年、KBPはエボラ出血熱を効果的に治療する数少ない企業の1つとして注目を集めています。(*3)

2020年4月時点の発表で、KBPは新型コロナウィルスの遺伝子配列の一部をクローン化に成功。これにより、潜在的な抗原(体内での免疫応答、特に抗体の産出を誘発する抗原)の開発につながったといいます。

たばこ葉由来ワクチンのメリット

開発中のワクチンは、BAT独自の急成長中の「タバコ植物技術」を使用しており、従来のワクチン製造技術に比べていくつかの利点があるといいます(*4)。いくつかピックアップすると以下のとおりです。

  • タバコは人間の病気の原因となる病原体の宿主とはなりえないので、安全である可能性がある
  • ワクチンの要素がたばこ植物に早く蓄積される
  • KBPが開発しているワクチン製剤は、冷蔵を必要とする従来のワクチンとは異なり室温で安定する
  • 一度の投与で効果的な免疫応答をもたらす可能性がある

たばこ葉由来のワクチンだからこそ、メリットがあるといいます。また、世界保健機構(WHO)も、「植物由来のワクチンは大量に且つ安価に製造でき、従来の開発されたワクチンよりも有害な汚染物質を含む可能性が低くなる」と伝えています。(*5)

この話題は、多くの海外メディアで話題になりました。

「これはエイプリルフールネタではない」海外メディアの反応がすごい

例えば、米国にてTwitterでは「BAT」がトレンド入りし、以下の主要海外メディアなどで大きく取り上げられています。

ウォール・ストリート・ジャーナルや、CNN、ブルームバーグなどなど、「大手タバコメーカーがコロナウィルスのワクチン開発レースに参入した」と報じています。

この中でも特に興味深い伝え方をしていたのが、CNNです。

This is no April Fool’s. British American Tobacco is trying to make a coronavirus vaccine.

つまり、

これはエイプリルフールのネタではありません。BATがコロナウィルスワクチンの開発に着手し始めました。

と、一番初めの報道が4月1日でエイプリルフールと重なっていたこともあり、わざわざ記事のタイトル見出しに「エイプリルフールのネタではないよ」と記載しています。

そのくらい、全世界の人にとっても、本来有害であるはずの「タバコ」がコロナウィルス打倒に繋がる可能性があるということに驚いたということを物語っています。

たばこ由来のワクチン、成功するか

このBATの試みには多くの期待が向けられています。既に動物実験段階は終了し、うまくいけば6月下旬から人に対しての臨床試験が開始できます。

それが成功すれば、週に最大で300万本のワクチンを生産できるー。これは、ここまで見てきたとおり、たばこ葉という植物由来のワクチンだからこそ可能になることといえます。

しかし、もちろんこのワクチンの実験が失敗する可能性もあります。

BATの科学研究チームリーダーのオライリー氏は「治験が成功しなかった場合、これらの試みと投与した資金は無駄になりますが、それでも時間とお金をかける価値がある」と述べています。(*6)

たばこ葉由来のワクチン、今後の行方もしっかりとお伝えしていきます。

*1:BAT working on potential COVID-19 vaccine through US bio-tech subsidiary(以下A)より、「BAT’s US bio-tech subsidiary, Kentucky BioProcessing (KBP), is developing a potential vaccine for COVID-19 and is now in pre-clinical testing.」

*2:Our efforts to address the impact of COVID-19より、「Since then, we have been completing pre-clinical testing and are pleased to report the potential vaccine has been shown to produce a positive immune response. As such, the vaccine candidate is now poised to progress to the next stage which will be Phase 1 human clinical trials pending FDA authorisation.」

*3:(A)より、「In 2014, KBP made headlines as one of the few companies with an effective treatment for Ebola, having manufactured ZMapp™ with California-based company Mapp BioPharmaceuticals in partnership with the U.S. Biomedical Advanced Research and Development Authority (BARDA).」
*4:(A)より、「The vaccine in development uses BAT’s proprietary, fast-growing tobacco plant technology which has several advantages over conventional vaccine production technology:」

*5:This is no April Fool’s. British American Tobacco is trying to make a coronavirus vaccine(以下B)より、「According to the World Health Organization, plant-derived vaccines can be produced cheaply in very high amounts and are less likely than traditionally developed vaccines to contain contaminants that are harmful.」

*6:(B)より、「 Those doses will go to waste if the trials aren’t successful, but it’s “a price worth paying” to save time, O’Reilly said.」